電力の反射波と反射係数
反射波と反射係数
電力の反射がなぜ発生するか?
高周波の電力では、電力を出力する側のインピーダンスと電力を消費する側のインピーダンスのバランスがとれていないときに電力が消費されずに反射されて出力側へ戻ってくる現象が生じます。この仕組みの説明を本やインターネットで調べてみたのですが難しく、イメージがなかなかできなかったためできるだけイメージしやすい例えで説明してみたいと思います。
伝送線路の特徴、特性インピーダンスと信号の反射の理解についてや、高周波信号を扱うときのインピーダンスのマッチングについてまた、なぜインピーダンスマッチングを必要とするのかといった内容から反射が発生するとどのような問題が発生するかといったことまで実際の測定例等を交えて説明されています。
電力の反射波が発生するイメージ
電力の反射と言うのはイメージしにくいかと思います。分かりやすく例えると同じ波である音波をイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。反射がある状態と言うのは音が進んで行った先に壁があり音の波が反射されてかえってくるという状態を考えて頂くと理解しやすいかもしれません。
次に電力の反射が全くない状態と言うのは、音が進んでいった先には壁がなく、そのまま音波が通過して行くイメージとなります。
そして一部だけ電力が反射して戻ってくる状態と言うのは、音波がすすんでいった先に壁はあるのですが、壁の厚さがが薄く、音波の一部は通過するがその他は反射して返ってきてしまうことをイメージして下さい。
電力で反射が生じる要因
では高周波の電力に対しては何が音波でいうところの壁の役割となるのでしょうか。高周波の特性の一つなのですが、高周波の波は出力側のインピーダンスと、負荷側のインピーダンスが共役になってバランスがとれていなければ電力が消費されずに反射されてしまいます。このバランスのずれが音波で言うところの壁の役割をします。
出力インピーダンス= | \(Z_O=R+Xj\) |
負荷インピーダンス= | \(Z_O=R-Xj\) |
ここで\(R\)は抵抗成分を、\(X\)はリアクタンスの成分を表しています。
つまりこの出力インピーダンスと負荷インピーダンスの共益の状態がずれればずれるほど壁が厚くなり波のほとんどが反射される状態となり、また共益に近づけば近づくほど壁が薄くなり波がそのまま伝わる状態となります。このインピーダンスのずれの量=壁の厚さを定量的に表したものが反射係数と呼ばれています。
反射電力の発生する物理的な仕組み
すこし踏み込んでここでは音波ではなく、直接電力で物理的な反射波のイメージをしてみます。結論から言うと電力で反射が発生する原因は、電力は出力された直後には負荷に到達するまで、負荷のインピーダンスが分からない状態であることから発生しています。
電源の出力インピーダンスが\(Z_O=R+Xj\)の時、電力は飛び出した瞬間には電流と電圧が出力インピーダンス\(Z_O\)から計算される値で進んでゆきます。しかし負荷に到達したときにこのインピーダンスが、虚数の成分は共役となって電流と電圧のずれが打ち消される状態となっていなければ電力は消費されず、
また抵抗の成分は負荷の直前までの電圧と電流から導かれる抵抗値、つまりここまで保持していた\(Z_O=R+Xj\)から導かれる値でなければエネルギーの関係性に矛盾が生じるために消費されずにそのエネルギーは出力元へ返ってゆきます。
この様に物理的に矛盾した負荷のインピーダンスが、音波で言うところの壁となり物理法則にのっとって、矛盾した分のエネルギーが消費されずに反射となって返されてしまいます。
反射係数の計算
上記の様に反射は出力インピーダンスと負荷インピーダンスのずれが発生するときに発生することからそのずれの量を定量的に表したものを反射係数と言います。この反射係数は出力と負荷のインピーダンスが共益の関係になると0となるようにすることで様々な計算を行いやすくなることから
下記の様に負荷インピーダンと出力インピーダンスを足したものと、負荷インピーダンスと出力インピーダンスの差の比をとったものを反射係数としています。反射係数は一般的に変数\(ρ\)で表され反射がない状態=共益の状態では0となります。
$$ρ={V_L \over V_O}={Z_L-Z_O \over Z_L+Z_O}$$
ここで、もう一つ反射係数\(Γ\)であらわされる場合がありますがこの場合は\(Γ=|ρ|\)の関係となります。\(Γ\)はマグニチュード(mag)とよばれベクトルの大きさを表し、これと角度\(θ\)(ang)を用いて
$$ρ=Γexp(jθ)$$
と表すこともできます。またリターンロスとばれる単位で[\(dB\)]の単位で表されることもあります。この場合には下記のように表すことができます。
$$Return Loss=-20log|ρ| [dB]$$
変数 | 変数の詳細 |
---|---|
\(ρ\) | 反射係数 |
\(V_L\) | 負荷に発生する電圧[\(V\)] |
\(V_O\) | 出力に発生する電圧[\(V\)] |
\(Z_L\) | 負荷のインピーダンス[\(R+Xj\)の形をとります。] |
\(Z_O\) | 出力のインピーダンス[通常50Ωまたは75Ω] |
\(Z\) | 正規化インピーダンス[\(Z_L \over Z_O\)] |
では次にこの反射係数\(ρ\)を用いて負荷インピーダンス\(Z_L\)は出力インピーダンス\(Z_O\)に対してどのような関係にあるのかを表すために\(Z_L=\)の形に変形すると下記の様に出力インピーダンスと負荷インピーダンスの比率の形として整理することができます。
$$Z_L={Z_O} \times {1+ρ \over 1-ρ}$$
さらにこの式をより使いやすくするために出力インピーダンスである\(Z_O\)でわることで
$$Z={Z_L \over Z_O}={1+ρ \over 1-ρ}$$
と表すことができ、この\(Z_L \over Z_O\)の比率にした値のことを正規化インピーダンスといい今回は\({Z_L \over Z_O}=Z\)と置いてます。なぜ正規化するか、これは比率で表すことで反射が発生する度合い表現しやすくし計算もしやすくするためです。
反射係数は複素数で表現される
正規化インピーダンス\(Z\)や反射係数\(ρ\)はそれぞれが虚数を含んだ形となり、\(Z=r+xj\)、\(ρ=U+Vj\)といった複素数で表される変数になります。そこで下記の様に\(Z\),\(ρ\)の実数部部分、虚数部分を考えた場合にどの様に表されるかの関係性の式を考えて行きます。
変数 | 変数の詳細 |
---|---|
\(U\) | 反射係数\(ρ\)の実数部 |
\(V\) | 反射係数\(ρ\)の虚数部 |
\(r\) | 正規化インピーダンス\(Z\)つまり\(Z_L \over Z_O\)の実数部=抵抗成分 |
\(x\) | 正規化インピーダンス\(Z\)つまり\(Z_L \over Z_O\)の虚数部=リアクタンス成分 |
すると下記の式のようになり
$$ρ=U+Vj$$ $$ρ={r^2{+x^2}-1 \over (r^2{+1})^2{+x^2}}+{2x \over (r^2{+1})^2{+x^2}}j$$
反射係数の実数部\(U\)は
$$U={r^2{+x^2}-1 \over (r^2{+}+1)^2{+x^2}}$$
反射係数の虚数部\(V\)は
$$V={2x \over (r^2{+1})^2{+x^2}}j$$
となります。