VPPとVDC

VPPとVDCとは?

VPPとVDCの概要

プラズマを利用した装置を利用しているなかでも、特にRF電源(高周波電源)を使用してプラズマを発生させる装置では頻繁にVPPやVDCと言う単語がでてきます。しかし実際に装置に関わっている人でもVPPやVDCがどういったものか分からないまま口にしている人も少なくありません。今回はその意味を説明したいと思います。

スパッタリングを使用した装置で実際に使用されている技術や、スパッタリングの種類等基本的な内容から、VPPやVDCについてやその他基礎的なスパッタリング装置の仕組みから、実際に実務経験が豊富な筆者による様々なノウハウまで記載さてており、初心者からベテランまで幅広く実務に関わる人に非常に参考になるかと思います。

VPPとはどう言う意味?

VPPはVoltage peak to peakを、VDCはVoltage direct currentを略したもので、VPPは交流電圧の最大電圧と最小電圧の差の事を指します。私たちが日本で普段使用している商用電源の単相100VACの場合にはVPP=141Vppとなり、下記の様に表す事ができます。
$$VPP=100 \times 2 \sqrt{2}=282.8VPP=141.4VP$$実際の波形で示すと下記の様なグラフになります。

高周波を利用したプラズマを扱う上でVPPはプロセスの監視や装置の負荷の異常の監視等に用いられる事が多く、一般的にRF電源と合わせて使用しなければならないマッチングボックスにVPPセンサーが搭載されています。(中には搭載していないものや別の場所に設置する場合もあります。)

しかしこのセンサーはマッチングボックスからの出力部付近の電圧を監視している為、出力部分以降の電圧はチャンバー自身のインダクタンスや浮遊容量によるインピーダンス、電力導入部の配線抵抗による損失等により、実際のカソードにかかる電圧とは異なる事に注意が必要です。

VDCとはどう言う意味?

VDCはVPPの電圧が全体的に一定の電圧で浮いている(オフセット電圧、またはバイアス電圧と呼ばれます。)状態でVPP電圧の最大値と最小値の中間点となる電圧の事を指します。

例えば私たちが普段使用している商用電源(コンセントにきている電圧)である単相100VACの場合にはVDC電圧は0Vとなり一定の電圧で浮いている状態は発生しません。下記の式の結果の様にVDC電圧は発生しません。例として式で表すと
$$VDC=\frac{141.4+(-141.4)}{2}=\pm 0$$となりVDCが0Vとなり発生していないことが分かります。

次に例としてVDCが-100V発生したときの波形を下記に示します。VPPは前述の電圧から変化していませんが、波形の電圧が全体的に-100V低くなっていることが分かるかと思います。この電圧がVDCを指しバイアスまたはバイアス電圧とも呼ばれます。

しかし通常の状態では波形の中心はグランド(アース)の0Vの電圧に固定されるためVDCは発生しません。VDCを発生させるにはコンデンサを使用するなでの方法で電圧がフローティングした状態(グランドへ接続されていない状態)で使用する等特殊な状況が必要となります。

プラズマ負荷ではなぜVDCが発生するの?

RF電源を使用した場合には上記の説明の様にVPPが発生することはご理解頂けるかと思います。ではなぜVDCが発生するかという事を説明します。チャンバー内部でプラズマを発生させると言う事は、チャンバー内の分子(原子)を電子と陽子へ分解する事を指します(この状態がプラズマと呼ばれます)。

RF電源によって高速で+と-の電位が変化変化しているチャンバー内では、それにつられて高速に+と-へ電子と陽子も動かされる事になるのですが、陽子は電子に比べはるかに質量が大きい為その速度に追従することができずにほとんど動かされません。

つまり電子のみが動かされるのですが、ここでRF電源に通常使用されているマッチンボックス内部のバリコン(Variable Capacitor)へ電子が貯められて行く事で負の電位となり負の電位が発生しこれがVDCとなります。

特に、上記の様に直流電圧を加ず、自分自身でプラズマによってバイアスの電圧を発生させる現象をセルフバイアスと呼びます。

またこの電子が貯められるコンデンサは一般的にブロッキングコンデンサと呼ばれます。直流成分を回路からブロックする事からそう呼ばれています。(コンデンサーは直流を通過させずに交流のみ通過させる性質があるため。)

絶縁物のスパッタリングではVDCは発生しない?

上記ではマッチングボックスのコンデンサによってVDCが発生することを説明しましたが、チャンバーのカソード側のターゲットに絶縁物が用いられている場合にはカソード側から電子の逃げ場なくなってしまうためカソード側のターゲット表面へ電子がたまってゆくことで負の電位へバイアスされることでVDCが発生します。(絶縁物自体がコンデンサの役割を果たしてます。)

よくプラズマ装置を使用しているうえで問題となるのが、絶縁物のスパッタリングでは、カソードのチャンバー側の面が絶縁膜で覆われる為、充電された電子がマッチングボックスまで通り抜けることが出来ない為マッチングボックスに取り付けられているVDCセンサーで検知できないことです。ただ、この場合実際にVDCが発生していないのではなく検出されないというのが正しい表現となります。

実際にはアノード側はグランドに落ちている為0Vとなり、カソード側はカソードと絶縁物のターゲットおよびチャンバー本体の浮遊容量がコンデンサと同じ役割を果たし、チャンバー内部ではVDCが発生しておりスパッタリングが行われますが、充電された電荷が絶縁物のターゲットで覆われたカソードを通過することができずにVDCが検出されないのです。

この時カソード側が絶縁物なので高周波電力も通過できなくなるのではないかとの疑問に感じるかと思いますが、高周波電力は交流であることからの為絶縁物も誘導により通過することができます。(同様に高周波電力は直流とは異なりコンデンサも通過する事ができます。)

交流電圧の表し方のRMSとは?

高周波電力では一般的にはVppで電圧を表現することがほとんどなのですが、私たちが一般的に家電等で使用している電圧である、100V(=100VAC=AC100Vのこと)は実効値を表しており、VppやVpと区別して明示的に表記する場合にはVrms(Voltage Root Mean Square)と表します。

Vrmsは電圧の実効値であることからVppの電圧を半分にし、さらに\(\sqrt{2}\)で割った値が実効値になります。また逆にVrmsからVpを求めるにはVrmsへ\(\sqrt{2}\)を掛け算し、VrmsからVppを求めるにはVrmsへ2√2を掛け算することで計算できます。またVpからVppを求める場合は単純に2倍となるため、Vpp=Vp×2で求めることができます。

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