マグネトロンスパッタ

マグネトロンスパッタとは?

マグネトロンスパッタの概要

マグネトロンスパッタとは通常のスパッタリングに加え、ターゲット(膜としてつけたい材料)の近くに磁石をおき、そこで発生している磁界の力を利用してプラズマを一定の範囲内へ閉じ込めた状態にすることで効率よくスパッタリングされる様にしたスパッタリング方法のことです。この方法では通常よりも効率よくスパッタリングが行われるため、同じ電力でもスパッタリングの速度を早くすることができます。

スパッタリングを使用した装置で実際に使用されている技術や、スパッタリングの種類等基本的な内容から、マグネトロンスパッタを含めその他のさまざまなスパッタの種類についても書かれています。プロセスに関わっている第一人者によって実際に役立つ実用的な内容が多く書かれていますのでぜひ参考にして下さい。

マグネトロンスパッタの仕組み

通常のスパッタリングではカソードとアノードの間に全体的にプラズマが広がってゆきます。ただこのままではプラズマが空間内に大きく広がっている状態となっています。「スパッタリングの基礎」で解説した様にスパッタリングは電離したガスの陽子をターゲットへ衝突させてターゲットの原子を飛び出させてその原子を基板(膜をつけられたい物質)へ付着させる技術です。

このことからプラズマがターゲットの近くで発生すればするほどターゲットへ陽子が衝突しやすくなることがイメージできるかと思います。そこで強力な磁石を利用して磁界を発生させ、その力で電子をターゲット近くでのみ運動させることでプラズマの発生をターゲット付近でより強く発生させる方法が考案されました。

マグネトロンスパッタの理論

まず初めにスパッタリングは電極へ高電圧が印加されたことによって、もともと浮遊している微量の電子が真空中に入れられたガス(アルゴン等の希ガスや、反応性のスパッタリングの場合は窒素等)の原子に衝突し、その原子にある電子が飛び出してまた他の原子へ衝突することで陽イオンと陰イオンへ電離したプラズマが生成されます。

次にその時にできた陽子が陰極となっているターゲットへ勢いよく衝突することで、さらにそこから電子が飛び出してきてさらにガスの分子へ衝突してゆくことで連続してプラズマが発生する状態となります。(この時のエネルギーで光り、放電している状態がグロー放電と呼ばれています。

マグネトロンスパッタではこの時にターゲット付近へ磁石を置くことで、この飛び出した電子が遠くへ移動すること防ぐことでプラズマをターゲット付近で強く維持する様にしています。ではどの様な理論で電子が遠くへ行くことを防いでいるのでしょうか。

まず磁界中を電荷が移動するときにはローレンツ力と言う物理的な力がが働きます。この力はフレミングの左手の法則によって発生し、磁界の中を通過する電子に働く物理的な力です。電子はローレンツによって力磁界の向き(磁力線)の周りを同じ速度で回転し続けます。

つまり電子は磁力線の周りで回転はしていますがその円周上で拘束された状態となり磁石のあるターゲットの近くから離れることができなくなります。この様にターゲットの近くで多くの電子が拘束された状態となることでその周辺では多くの電子が周辺のガスの原子へ衝突することになります。

結果衝突された原子は、陽子と電子へ電離することから、必然的に陽子と電子お数も磁力線の近くでは多くなりプラズマの密度が高い状態となって行きます。またターゲット付近の陽子の数が多くなると言うことはターゲットへ衝突する陽子も多くなりそこから飛び出すターゲットの原子も多くなることからスパッタリングの速度が速くなります。

ローレンツ力による電子の拘束

では上記で説明した中にでてきたローレンツ力によって、どのように電子が拘束されるかを説明します。電子が磁界の中へ突入すると運動の方向とは常に直角の向きの力(ローレンツ力)が発生します。この力によって電子は真っ直ぐに進みたいのですがローレンツ力の方向へ常に引っ張られた状態となり磁力線の周りを等速で円運動を行う様になります。

つまり電子は磁力線のまわりで常に一定の円周上で回転し磁力線から離れられなくなります。この様な理論で磁石によって電子を一定の範囲内から飛び出さない様にすることができます。

マグネトロンスパッタのメリットとデメリット

マグネトロンスパッタはプラズマがターゲットの周辺に閉じ込められることで基板(膜をつけられたい物質)側はあまりプラズマに晒させず、プラズマの熱やイオン等によるダメージが少なくなります。また効率よくスパッタリングされる様になるためスパッタリングの速度が速くなります。

そのため今では様々な分野でほとんどがこのマグネトロンスパッタの方式が使用されています。その反面、ターゲットの周辺の磁場は均一ではないため、磁束の集中する場所、つまり磁束密度の高い場所ほど濃度の高いプラズマが発生し、磁束密度の低い場所ほど濃度が低いプラズマになります。磁石の場合一般的にS極とN極の中心程磁束密度が低くなるため中心でプラズマが薄くなります。

するとプラズマが濃い部分ではターゲットが削られる速度が速く、プラズマが薄い部分では削られる速度が遅く、ターゲットの削られる量にムラがでてきます。その様な状態でもし一部分でもターゲットが削られきって、バッキングプレートとよばれるターゲットを固定している電極がみえてしまうと、

電極の物質までスパッタされることになってしまいます。そうするとターゲットがに残っている部分があっても、もううそのターゲットを使用することができなくなってしまいます。通常のスパッタの様にターゲット全体が均一にスパッタされているとターゲットの厚さのぎりぎりまで使用することができるのですが、マグネトロンスパッタの場合にはどうしても不均一となってしまうことからターゲットの使用効率が悪くなってしまいます。

しかし現在では、そういったことを極力防ぐために磁場を交互に発生させたり、磁石の配置を工夫したりすることで、できるだけターゲットの仕様効率をよくし、スパッタリングの速度の速いマグネトロンスパッタメリットを活かして様々な製品の生産に使用されることがほとんどです。

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